誰か人生を教えてください・・・


by maple_r

カテゴリ:小説( 8 )


 待ちに待った作品が、ようやく文庫落ちした。単行本が03年の3月だから、4回目の葉桜を迎えてやっと。
 何度も単行本を買ってしまおうかと考えた。しかし歌野晶午については重くて固くてかさばる単行本をわざわざ買うほどまで入れ込んでいるわけでもないし、なによりオレはまだ文庫本を読める目を持っているのだ、文庫で読ませてくれ。
 この作品、こんなタイトルなのにミステリなのである。「このミステリがすごい!」2004年版国内編1位作品というコテコテの。

 蓬莱倶楽部という、老人相手に高額な健康商品を売りつける詐欺会社を調査することになった主人公の冒険譚。メインストーリーはそれほど意外な展開を見せるわけでもなく進むが、多くのサブストーリーが同時に進行する。
 これが伊坂あたりだったら、一つ一つのサブストーリーを一つずつ回収していって……となるところであるが、この作品の場合、それが……。

 さてこの作品、期待していた通り、しっかりラブストーリーになっていた。歌野晶午の場合、「死体を買う男」なんて全く天から降ってきたタイトルで、ぜんぜん看板に偽りアリだし、この作品でもその大げさに詩的なタイトルに対して内容を伴ってないという批判もあるようだけど、個人的には納得した。
 ただ、ミステリでは無く、全体を純粋なラブストーリーにしたらどうなっていたのだろう。今の歌野晶午の筆力なら、それも可能ではないかと思うのだが。


 余談だが、歌野の作品では、物語の本筋と少し外れたところで妙に社会的な独白が語られることがある。この作品中では蓬莱倶楽部の社長の独白がそれ。「世界の終わり、あるいは始まり」ではI章における雄介の独白とか。
 案外と、東野圭吾的なポジションより、森村誠一的ポジションにむいているのかも。
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by maple_r | 2007-06-05 01:06 | 小説
 小説では、無いのだが。

 話題になっているので読んでみた。東京都で労働相談窓口に携わっていた人の、窓口に相談に訪れた人を考察したドキュメンタリーである。
 セクハラ被害を訴える女性被害者と、あれは全て合意の下であったと抗弁する男性加害者。セクハラ抗議の事例を紹介したあと、筆者の考察が入る。

 オレ自身が読む前に、タイミングで会社の後輩に先に読ませることになった。
 先ず、後輩K(♂29)。労働力はアジアの低賃金の人間に任せればいい。高所得者は働く必要は無い、資本を使えば良いのだ、と主張する帝国主義者。
 「セクハラする方はする方でダメだけど、オンナもさわらせすぎ。こんなにさわらせたら、オトコも勘違いしますよ」

 次はバイトの女子N(♀25)。父親は国立大学の元教授。今は退官。母親はフェミ系市民団体に属する左寄りの人。そして兄貴は引きこもりニート。以前、引きこもり小説であるところのNHKにようこそを貸したら、数十ページを読んだところで、「こんな本を貸すなんて信じられない! もう、捨ててやろうと思いましたよ!」と、えらくご立腹だった女子。
 「電車の中で、こんな典型的なセクハラオヤジがいるんだーって、声を出して笑いそうになっちゃいました。でも、こんな話はいくつも読んでも意味無いので、半分読んだところで返します」

 オレの感想であるが、セクハラ加害者に対しては単純に憤りを覚えた。どうしてそこまで女子の意志を無視して自己の妄想の世界に走り込むことが出来るのか。
 セクハラ事例以外の本編でも、後半の考察部分では納得出来ない部分が多々あったがね。

 とりあえずこの本を読んで考えたことは、日本の家庭の女性は自分の血縁者の二人称を、自分の子供の視点で呼ぶことがデフォであり、例えば女性Aは、自分のダンナを「おとうさん」と呼び、自分の父親は「おじいちゃん」、母親は「おばあちゃん」となるのである。
 これは、女性に限ったことで、男性には関係のない事象かと思っていたがさにあらず、男は呼称では無く、位置づけでこういうことを行っているような気がするのだな。

 つまり、自分の女房に対して、その位置づけを恋愛対象から母親へとシフトするという。
 
 家庭は母親に守られた聖なる領域。それは崩れるべくもない。
 そして会社は恋愛の場所。家庭と切り離し、自分が男になるべき場所。

 こういった錯誤が、セクハラの全てのような気がしないでもない。

 元々、この本で語られているような極度のセクハラ加害者は、常軌を逸した状況錯誤があるわけであるが。
 例えば、女子の視線を感じる。この女子は、オレを見ている、オレに気があるに違いない。ところが、この女子は、鼻毛が気になって仕方がないだけかもしれないのだ。
 
 犯罪者は、自己を奮い立たせるために、全ての状況を自己に優位な方向へ思いこむらしい。自分が見られていることを、自分が恥ずかしいという負の方向で考えることが出来ず、惚れられているという正の方向でしか考えられないのは、犯罪者及び予備軍の思考なのである。

 注意したい物である。
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by maple_r | 2006-05-01 00:59 | 小説
 まだソープランドがトルコ風呂と呼ばれていた頃、大学受験でドロップアウトし、歌舞伎町のキャッチバーでバイトしていた主人公・佐川豊(童貞)は、ヤバメの客・栃憲に騙され雄琴に連れて行かれる。信じられないほど過酷な労働条件と、信じられないほど不浄な寮と呼ばれるプレハブ小屋。そして、春を売る姐さんたち……。

 
 萬月の作品は、初期からずいぶんと作風が変わってきた。初期は、それこそセックス・ドラッグ・ロケンロール&バイオレンスという感じで、こんなこと書いておけばウケるんだろう、というあざとさが目立っていた作品が多い。そんな中でもブルースという素晴らしい作品を輩出した。
 徐々にバイオレンスが影を潜めてくるが、やはり作品の根底にあるのはバイオレンスの動と、その対比にある静。これが萬月作品のすべてであった。

 やがて静が作品全体を占めるようになるが、静と動のバランスに優れている作品が、皆月である。
 そして、ここに至り静で作品が完結するようになる。スパイス程度の暴力はあるが、あくまでスパイス。全体が寂寥感漂うことには変わりない。

 作品全体を静でまとめ上げることが出来るようになったのは、萬月の筆力によるもの以外になにもない。描写、言葉の紡ぎ方がすばらしい。
 単純な言い方をすれば、萬月が円熟期に入ったと。
 いや、それでは作風がシフトしただけになってしまうな。これは、確実にレベルアップだ。
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by maple_r | 2006-05-01 00:00 | 小説
物語はいきなりタイトルの人物である時生が、ベッドで死の淵に向かいつつあるシーンから始まる。
序章と名付けられているこの章では、彼の病気が遺伝性のものであること、その病気を発症する可能性がありながら彼を産むまでの苦悩のこと、彼の少年期の頃のことなどが語られる。

東野圭吾の、こういった特異な病気を持ち出したり、時事ネタを絡めたりといった作風は、あざとくて大嫌いだ。「片思い」とか「幻夜」とか。
こんな、いかにも狙ってます、という事象からプロットを広げるくらいなら、いっそ、「秘密」のようにSFで行ってくれたら良いのに。 そう思いながら序章を読み進めると、その最後で一転、SFとなるのであった。

ずっと昔、俺はあいつに会ってるんだ
今から二十年前だ。俺は二十三だった


本編は、時生の父親と時生のファーストミーティングから始まる。
屑野郎だった青年期の父親を、精一杯フォローする時生。
そして、折に触れて物語の本質である、時生は病気を持って産まれてきて、それでいて幸せだったのか、という点に言及される。


なんでオレは、こういう家族愛的なものに弱いんだろうなあ。
花村満月を好きな点も、ファミリーを構築するという部分だものなあ。
現実の家族愛に餓えているとは認めたくないが、事実なんだろうか。
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by maple_r | 2005-12-07 00:47 | 小説

世の中にどうしてこれだけのカップルができるか、恋人同士が成立するか、
その理由について思考したことはあるかね?
だっておかしいじゃないか。自分が好きな相手が自分のことを好いてくれているなど、
そんな好都合なことがそうそう起こり得るはずがない。



世に能力のインフレを引き起こしたのはドラゴンボールだと思う。
強い敵に勝っても、さらに強い敵が現れる。そして、それに勝ってもさらに強い敵。

それまでのマンガでは、初期段階で闘った相手でも、最終的にザコに成り下がることは無かった。
ホセ・メンドーサと闘った矢吹でも、力石のことは今でも称えられているし、
花形は生涯のライバルだった星飛雄馬、

エビ反りハイジャンプなんちゃらとつけた侍ジャイアンツは、能力インフレを先取りした時代読みマンガだったか。


マンガ世界以外では、たとえばクルマのグレード。
トヨタ・クラウンとか、最初は高級グレードがデラックスだった。
それが、スーパーデラックスとか、スーパーサルーンとか、ロイヤルサルーンとか。
結局行き詰まってそういう名称を使わなくなった。
上に上を作ろうとすることは、非常に難しい命題なのだよ。


講談社メフィスト系作家は、能力インフレが大好き。

清涼院流水は、JDC(日本探偵協会だったっけ?)とかいうのを作って、超・能力を持った人ばかり集めてる。
この西尾維新も、同じ。

数時間で数千万円の価値のある絵を描き出す画家、
常人の数千倍の味覚を持っているためとびきりの料理を作れる料理家、
アメリカの天才中の天才を集めた、自分で能力を高めたいがための集団でトップ7に数えられた学者、
未来を見通せる超能力者に、
コンピューティングで不可能は無い技術者。

そんな人が集まった孤島で起こる殺人事件。


作者が背伸びをしながら綴る作品に、面白いものは無いのだ。


と、物語の半分までは思っていたのだけれど、
最後の最後、後日談とかを抜きにして考えれば、これは面白いと言って良いのかもしれない。

少なくても、竹本健治の初出時というのは、こんな感じだったのだろうか。
もちろん「匣の中の失楽」ね。


友達にはなりたくないけど、ちょっと気になる。何やってるんだろう、そう思わずにいられない
そんな人の作品だ。
とりあえず次を読んでみないと結論は出ない。
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by maple_r | 2005-11-05 22:49 | 小説
文字を連ねるだけの、メフィスト賞作家。

この類は、アナグラム(文字の組み替え)を良く好むな。
全く意味無いところにアナグラムでつまらない意味を持たせ、おぉ~そんなことに気付くなんてすごい! みたいな展開にするのが好き。
常人の思考外のトリックやトラップ、ヒントに気付き、おぉ~さすが探偵! みたいな展開にするのが好き。
ていうか、今時の読者、そんなの読んですげーなんて思いませんから。でも人気あるらしい、この作家。

ふつうの探偵小説面にくわえ、ハードボイルド系にも傾倒しているらしく、やたらバイオレンス。さらにありえないほどタフなヤツらばかり。
文章の間に映像をイメージさせるべく、マトリクスのなんちゃら、とか、映画のシーンを挿入するって、なにそれ。

そして、圧倒的文圧だとかスピード感だとか称される、読点・改行が全くない文章の羅列。

ひたすらに軽薄で自己満足な本だった。

なんで人気があるの? ほんとにわかんない。

阿修羅ガールという作品が、三島由紀夫賞を受賞しているらしいが、それ読んでつまらなかったらどうしてくれよう。
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by maple_r | 2005-08-24 21:06 | 小説
吉川英治文学新人賞を受賞し、直木賞にも手が届きかけている伊坂幸太郎。
メフィスト賞上がりの、ただ文字を連ねるばかりの講談社系作家とは一線を隔てる作者の評判作、文庫化されたので読んでみた。
一気読み確実、とか帯に書かれていたけれど、そんな経歴ならばそんな読み方はもったいない、会社から帰宅する電車の中でゆっくりと読み連ねた。

結論から言えば、これは来るな、と。ミステリのカテゴリで収まろうとはハナから考えて無いようだし、文体は個人的にはもう少し重みが欲しいが一般受けという点からは、このくらいが申し分無いのだろうという内容。乱暴な分け方だが、東野圭吾系のファン層を得る位置付けか。

社会人経験が少ないために、少し背伸びした文章が見受けられることと、叙述トリックは許せるとしても、その書き方があまりにあまりなところがいくらかあったのがわざわざ特記せざるを得ない個所であるが、それも粗探しでしか無いか。

他の作品も、ぜひ読んでみたいと思う。今はまだ、文庫化されたら即読むぞ、という段階であるが。
直木賞候補ということで、直木賞をとる事は出来ない東野のように、ヘンな醜聞とかに巻き込まれずに成長してほしいなあ。
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by maple_r | 2005-07-03 20:55 | 小説

池田小学校殺傷事件の宅間守の死刑が執行された。死刑確定から1年程度という異例の早さで。
それにしても、よくもこれほどのクズ人間が世の中にいたもんだ。
自分がダメになったのは、全て周りの人間のせい。環境のせい。
無反省で、全て責任転嫁。

社会に適応できないと気付くが、自殺する勇気も根性も無く、弱い小学生を道連れにした上で他人により殺される権利を得る。

死ぬのは怖くないとか強がっていたのは、すべて弱さの裏返しだろう。
死ぬのが怖くて怖くてしかたが無いから、いつ殺されるのか不安でたまらないから、早期執行しろなんて言うんだ。

こんな、クズとはいえ仮にも人間の姿をしている有機物である。死刑という御旗の基で自らの手を汚すことになってしまった執行人が気の毒でならない。


表題の小説は、2001年の江戸川乱歩賞受賞作である。
傷害致死事件の仮釈放中の青年と、その青年が服役していた刑務所を退職した元刑務官が、とある死刑囚の冤罪を立証するための証拠を集める話。

若干プロットに弱いところがあるものの、読んでみて損は無い物語である。個人的には一気に読んでしまったほど引き込まれた。
特に、元刑務官が執行したときのモノローグは秀逸。

この本は、執行前に宅間に読ませたかった。
オマエを処刑しなければならないために、こうやって十字架を背負っていかなければならない人が発生してしまうということを判らせるために。
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by maple_r | 2004-09-15 01:38 | 小説